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ほのかな春 - 奥多摩・松生山~浅間嶺 [山歩き]


 奥多摩の浅間嶺(903m)。手軽に登れて山頂からの眺めもいいので、冬季を中心にこれまでも何回か登ったことがある。そこから浅間尾根を歩いて数馬の湯に至る間は、しみじみとして味わい深い。私の好きなコースなのだが、一つだけ難点がある。上川乗からにしろ、時坂峠からにしろ、浅間嶺のピークにはわりとすぐに着いてしまい、昼食には早過ぎる。といって、浅間尾根に入ってしまうと、今度はのんびり食事をするような場所がない。

 そこで、今回は少し違うアプローチを考えてみた。浅間嶺のずっと東側の麓にある笹平というバス停から尾根伝いに登り続けて、浅間嶺の一つ東隣の松生山(まつばえやま、934m)に至るルートだ。昭文社の登山地図ではこのルートは点線表記になっていて、コースタイムも載っていない。とはいうものの、ネットで調べてみると、そこそこ登山者はいるようだ。少なくとも藪をこいだり鉈目を拾ったりするような山道ではなさそうである。
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 標高330mほどの笹平バス停からは、松生山までの標高差が単純計算で600m程度だが、カシミール3Dで調べてみると、尾根道のアップダウンがあるから、数馬の湯までの累積標高差が上り1,000m、下りが700mほどになる。そして歩行時間は、浅間嶺までが2時間40分、数馬の湯までは累計4時間55分と算出された。それならば、少し健脚組を選んで少人数で行ってみようか。そんな企画を始めたのは、山行当日の一週間前を切っていた。
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 2月21日(土)朝7:57に武蔵五日市の駅に着く電車で、私たち4人は集合。タクシー1台で笹平バス停まで20分強、料金はちょうど4,000円ほどだった。道路を先の方向へ少し歩き、右カーブが始まったあたりで、道路の右上に畑があり、その中に二本のアンテナが建っている。それが登山道の目印だ。
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(畑の横から登山口へ)

08:34 登山道入口 → 9:31 701mピーク

 アンテナが建っている畑の右の縁に沿って土の道を登っていくと、それが植林の中に入っていく手前に最初の道標がある。どうせなら下の道路からもう少し見やすい場所にこの道標があれば、と思う人は多いのではないだろうか。
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(これが最初の道標)

 それはともかく、植林の中に入るといきなり急登が始まる。踏み跡は明確ではあるが、尾根を直登していく道で、場所によっては木の根を掴みながらよじ登るほどの傾斜だ。今日は残雪がないからいいけれど、雪を踏むことになったらこの傾斜はかなり厳しいのではないだろうか。
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 早くも汗をかきながら登り続けること20分強。地図上で498mのピークと思われる箇所を通過。暑いので衣類を調節してすぐに歩き出す。そこからは一旦傾斜が緩くなるものの、再び急登が現れる。そのうちに、我々の先を歩いていたおそらく高校生と思われる15人ほどのパーティーに追い着き(引率の先生らしき大人も含まれていた)、先に行かせてもらうことになった。考えて見れば、彼らは我々より40年も年下の若者だ。こんな年寄が追い抜いてしまっていいのだろうか。
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 登り始めて1時間足らずで、地図上の701mピークに到着。殆ど計画通りだ。植林の中で、私たちは短い休憩を取った。

09:36 701mピーク → 09:47 内蔵ノ助山 → 10:15 払沢ノ峰 → 10:45 松生山

 再び歩き始めると、わりとすぐに次のピークがある。植林の中にひっそりと掲げられた「内蔵ノ助山」という手書きのプレート。そこから尾根は次第に北寄りに方向を変え、左側が雑木林になって山道が明るくなっていく。足元には笹が茂り、谷一つ隔てた南側の笹尾根とよく似た雰囲気だ。その笹尾根も、木々の枝の向こうに見えている。
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(尾根道が明るくなってきた)

 山道が更に北向きになると、日陰側の斜面に雪が残るようになった。これから歩いていく松生山までの稜線が木々の向こうに続いている。
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 それから一登りで払沢ノ峰を通過。その先で尾根は再び西向きになり、空がますます明るくなっていく。歩き始めに比べればだいぶ傾斜も緩くなってはきたが、ここまで私たちはごく短い休憩しか取っていなかったから、そろそろ疲労もたまってきた。それでも、先の様子を眺める限りでは松生山のピークは近そうだから、もうひと頑張りすることにしよう。

 そして、払沢ノ峰からちょうど30分。最後の坂を登りきると、松生山の山頂に出た。驚いたことに、こんなひっそりとした山の上に、妙に立派なアンテナが建っている。だが、そのおかげとでも言うべきか、南側の木が刈られていて、大きな富士山を眺めることが出来る。浅間嶺からだと首から上ぐらいしか見えないのだが、この松生山からの富士はなかなか立派だ。これをお目当てにしていただけに、私たちの感慨もひとしおである。
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 今日は風のない実に穏やかな快晴の土曜日になった。2月も下旬。太陽の光はだいぶ力強くなり、日なたは本当に暖かい。これが春の兆しなのか、富士山の青色も今日は少し淡くて穏やかな色である。
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(手作り感たっぷりのプレート)

10:55 松生山 → 11:22 浅間嶺展望台

 松生山から先は、しばらくの間起伏の穏やかな尾根道が続く。途中、天領山という手書きの小さなプレートが木に取り付けられたピークがあるのだが、本日の最高地点(936m)なのにどこが山頂なのかわからない山だ。その次の「入沢山」もそうで、1/25000地図に標高表記もないピークなのだが、ここにも手書きのプレートがある。整備をしてくれた人には、何か思い入れがあるのだろうか。

 その入沢山を過ぎると、山道は一転して大きく下るようになる。木々の間から浅間嶺が下の方に見えている。ずいぶんと下ってしまうように見えるが、実際の標高差では80mほどだ。そして、下りきったあたりから浅間嶺にかけて、尾根の北斜面には一気に残雪が多くなった。
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 つい先ほどまでは、落葉を踏みながら乾いた山道を歩き続けてきたのに、浅間嶺の手前ではノルディック競技でも出来そうなほどの残雪。そして、「浅間嶺展望台まで0.5km」の道標から若干登り返すと、ついに浅間嶺展望台に到着した。笹平バス停からここまで、途中15分の休憩を差し引くと、歩行時間は2時間33分。計画では2時間40分を見込んでいたから、これはもうニアピン賞といっていいだろう。みんなよく頑張ってくれた。
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(浅間嶺展望台に到着!)

 浅間嶺の903mの三角点は、実際にはこの先の森の中にあって展望がない。私たちの立っている展望台は標高900mを僅かに下回るのだが、とにかく四方の眺めがいいので、特に風の強い日でない限り、登山者はここで昼食休憩を取ることが多い。私たちも、北に奥多摩の主稜線、南に富士と丹沢を眺めながら、この展望台で暖かい昼食を楽しむことにした。
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 特に私が飽かず眺めていたのは、北の山々である。青い空の下、御前山の後方に連なる鷹ノ巣山、雲取山、七ツ石山、そして大洞山(飛龍山)。今もなお雪を抱いてはいるが、ほのかに春が香るような眺めだ。
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12:05 浅間嶺展望台 → 12:33 人里峠 → 13:05 一本松 → 13:53 浅間尾根登山口 → 14:05 数馬の湯

 ここからの下りには、山靴に滑り止めを装着。あずまやのある所まで下りると、そこから先の浅間尾根は山道が尾根の北側なので、驚くほど雪が残っている。それも、よく締まっていて歩きやすい雪だ。この区間のスノーハイクは今まで何回か経験しているのだが、ここは実に楽しい。東京都の中でこれほど手軽にスノーハイクを楽しめる場所があるなんて、ちょっと信じられないほどだ。
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 人里峠を過ぎて一本松の直前あたりで山道が一度尾根の南側に出る箇所がある。ほんの少しの場所の違いで、そこには全く雪がなく、明るい午後の光が降り注いでいる。そこから先の山道は日陰と日なたが交互にやって来て、その度に地面の雪が現れては消える。彼方の山々に雪は残るが、私たちを取り囲む落葉樹の無数の枝は、明るい太陽の下で真冬の眠りが少し浅くなり始めているようにも見えた。
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(生藤山を望む)

 陰と日なた、残雪と太陽、冬と春との静かなせめぎ合い。山道を歩きながら、いつしか私はガブリエル・フォーレのピアノ五重奏曲第2番を思い出していた。今頃の季節に陽だまりの暖かさを楽しみながら聴くのが、私は好きだ。深い響きのある弦楽四重奏と流れるようなピアノの組み合わせが、沢の雪解けを思わせる。

 数馬分岐から山道を南に辿ると、とんとん拍子に高度を下げ、民家が表れて呆気なく舗装道になる。南秋川に架かる橋を見下ろすと、ここでも雪景色の名残と早春の太陽が静かに力比べをしていた。
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 橋を渡って檜原街道を右に向かうと、やがて数馬の湯が見えてくる。14時05分着。計画では14時10分着の予定だったから、今日は文句のつけようがないほど計算通りに行程が進んだことになる。健脚が揃って本当によかった。みんな、ご苦労さまでした!

 それからゆっくりと汗を流した数馬の湯には、立派な雛段が飾られていた。都会より山の方が春は遅いのに、山の中を歩いて、むしろ都会よりも先に春の兆しを見つけたような半日だった。

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コメント 1

北京現人(H氏)

お疲れ様でした。
本当に春を先取りしたような気持ちの良い山登りを楽しめました。
まだ木々は冬の装いでしたが風や陽の光が春を予感させてくれました。
また山登りの季節が始まりますね。
後から思えばもっとお昼、ゆっくりとって1本後のバスで帰っても良かったですね。
次回はどこへ行きましょう?
引き続きよろしくお願いいたします。
by 北京現人(H氏) (2015-02-24 23:59) 

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