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この一週 [季節]


 季節は二月末から三月の頭。晴れた日の太陽の光はだいぶ力強くなってきたが、吹く風はまだ冷たく、木々の枝は依然として裸のままだ。冬のコートがなかなか手放せないが、それでも時々春の兆しがひょっこりと姿を現したりする時期である。

 七十二候では雨水の末候にあたり、「草木萠動(草木が芽吹き始める)」と名づけられた時期なのだが、そう思って見ると、我家のベランダで鉢植えにしているピノ・ノワール種のブドウの木に、小さな芽が幾つも出ていた。家族は既にスギ花粉の飛来を感じるようで、家内も子供たちも鼻をグスグス言わせ、目の痒みを訴えている。春を待ちわびて外を歩き回っているのは、相変わらず鈍感力だけで生きている私ぐらいのものだ。

 毎年そうなのだが、この時期になると日々の寒暖の差が大きくなり始める。この一週も、毎日の気温の変動がかなり激しく、通勤には二種類のコートを使い分けることになった。それもまた、春を待つ楽しみの一つなのかもしれない。
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【2月28日(土)】 晴一時曇

 よく晴れた土曜日、山仲間たちと6人で奥高尾をせっせと歩いた。

 実施の四日前に急に思い立ち、健脚組だけに声をかけたのだが、そんなショート・ノーティスにもかかわらず6人が集まることになった。高尾山口から稲荷山コースで高尾山に上がり、小仏城山から景信山を経て陣馬の湯までの約15km。山地図上のコース・タイムは6時間ちょっとなのだが、それを50分短縮して歩こうというアグレッシブな計画。とにかくせっせと歩き続けることが条件になる。

 8時16分に京王線の高尾山口駅に集合。メンバーの一人にハプニングがあって到着が遅れ、ケーブルカーを利用して追いかけてもらうことにして、9時半過ぎに高尾山頂で6人の顔ぶれが揃った。風の穏やかな快晴で、富士山もスッキリと見えている。だが、それよりも私たちの目を引いたのは、山頂付近に雪を抱いた丹沢の主脈の堂々とした姿だった。特に最高峰・姪ヶ岳が立派である。
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 この時期の低山は、日当たりの良い山道は乾いているのだが、日陰の部分は夜間に降りた霜が昼の間に融け出してぬかるみになっている。高尾山から西に向かう最初の下りがまさにそんな箇所が続く。ぬかるみに足を取られないよう慎重に、なおかつハイ・ペースで歩き続け、10時半過ぎに小仏城山に到着。ここからも富士山がきれいに見えていた。
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 山道は北に向かい、小仏峠に下りた後に再び登り返して11時半に景信山に到着。全員がよく頑張っていて、意欲的な計画に対してここまでは本当に予定通りだ。茶店で名物のなめこ汁を注文して昼食を楽しんだ後、奥高尾縦走路を更に西へ。ここはもう何度も歩いた山道だが、堂所山のまき道を過ぎて底沢峠に至る手前で、奥多摩の大岳山や御前山、そしてその奥の雲取山方面の山並みを展望できる箇所がある。「草木萠動」の都会とは違って、山はまだ冬の装いのままだが、雑木林の色合いにどこか春の兆しが見えたような気がした。
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 予定の時刻に明王峠に着き、短い休憩を取った後、奈良子峠から陣馬の湯に向けて下山を開始。この下山道は日当たりが良く、ぬかるみもなくて実に歩きやすい道であることも手伝って、全員のペースは更に加速。陣馬の湯(陣谷温泉)に到着した時刻は、意欲的な計画を更に15分ほど短縮したものになった。

 陣谷温泉で檜風呂をゆっくりと楽しみ、マイクロバスでJR藤野駅まで送ってもらい、直通の快速電車で新宿へ。いつもの居酒屋での反省会も含めて、超高速で物事が進む充実した一日だった。

【3月1日(日)】 曇のち雨

 よく晴れて暖かかった前日とは大きく変わり、曇り空の肌寒い日曜日。午前中に実家の母の様子を見に行った後、午後1時半からマンション管理組合の会議に出席。2時間半ほどの会議の議事録作成を仰せつかる。これからの大規模修繕の方向性を検討していく、そのキックオフとして重要な会議になった。

 この日の夜は家内と娘が連れ立って観劇に出かけたので、夕食は息子と二人だ。今が旬のヤリイカを刺身にして、前週の出張時に仙台で買い求めてきた地酒で息子と一杯。これは真鶴(まなつる)という銘柄を世に送り出している宮城県北部の酒蔵のものだ。山廃仕込ながらスッキリした味わいがあり、常温で季節の食材と共に楽しむには最高である。やっぱり、日本はいいなあ。
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【3月2日(月)】 快晴

 前夜の雨が上がり、朝から快晴。最高気温も14度まで上がり、街中では梅の花が盛りだ。

 3月の声と共に会社の中も何かと忙しくなっていく。だがそれは、間もなく終わろうとしている年度の締めくくりというよりも、4月以降の新しい年度に向けての前向きな仕事、新たなチャレンジに関する事項が中心なので、気分は悪くない。

 「石走る垂水の上のさわらびの萌え出ずる春になりにけるかも」

 万葉集の時代からそんな風に詠われて来たようなそんな春を、我社も皆の力で迎えたいものである。

【3月3日(火)】 曇一時雨

 暖かかった前日からは一転して、火曜日は最高気温が10度に届かず肌寒い一日。

 ひな祭りの日なので、我家の夕食に家内は春らしい色彩の散らし寿司を用意してくれたのだが、当の娘は期末月で会社の仕事が忙しいようだ。私よりも遅く10時過ぎに帰宅して、それからの夕食になった。
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【3月4日(水)】 曇時々晴

 寒暖の大きなギャップがこの日も続く。前日の肌寒さとは対照的に、今度は最高気温が17.5度まで上がる4月下旬の陽気。南風が強く、花粉症持ちの人たちは暖かさを喜んでばかりもいられないようだ。

 夜になって帰宅すると、我家の食卓に今年初めてのホタルイカが並んだ。今から30年以上も前、私が社会人になった時の最初の任地が富山だったこともあり、春先のホタルイカは私の好物中の好物なのである。

 といっても、酢味噌を合わせる伝統的な食べ方にはなぜかあまり興味がない。最近ではアヒージョ風にしたり、パルメザン・チーズ、ニンニクの微塵切り、パン粉と共にオーブンで焼いたりといったレシピもあるようだが、ホタルイカをさっと茹でただけのあの食感を大事にしたいから、なるべくならそれ以上に熱を加えたくない。

 という訳で、目下のところ私が気に入っているのは、ワイン・ビネガーとオリーブ・オイルでマリネにするか、或いは胡麻油と少量の醤油で和えて七味唐辛子を挽いたものである。
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 今週は月・火ともドライで過ごしていたのだが、ホタルイカが食卓に登場したこの日の夜は、さすがに缶ビールを開けてしまった。

【3月5日(木)】 晴

 前日ほどではないが、この日も暖かさが続く。東日本大震災の3.11が近づくにつれて、日々配信されるニュースも震災のメモリアル関連のものが多くなりだした。思い出してみれば、4年前の今日は東北新幹線の盛岡・新青森間が開業し、E5系「はやぶさ」が颯爽と登場した日だったのだ。その日は土曜日だったから、私は日暮里駅北側の架橋から上りの「はやぶさ」の一番列車をカメラに収めたものだった。

 最高速度300km/hを誇るE5系だったが、その登場から7日目に発生した東日本大震災のために、東北新幹線自体が4月下旬まで運休になってしまった。震災が全ての原因ではないが、それ以来私の会社にとっても辛い時期が長く続いた。

 けれども、昨年の後半からそのアゲンストな環境にもようやく変化が現れ、会社は今、前向きな忙しさの中にある。この夜、結構遅くまで仕事をしたのもそんなことの一環なのだが、この会社の新しい歴史を作るつもりで、ともかくも邁進して行こう。

【3月6日(金)】 曇

 この日から七十二候は啓蟄の初候・「蟄虫啓戸」に入る。冬篭りの虫が外に出て来るという意味だ。前日からまた少し気温が下がり、啓蟄と呼ぶにはやや肌寒い日となったが、地中の虫が動き出す時期ではあるのだろうか。

 この日の夜は大学時代の友人たちとの約束があって、江東区森下の「みの家」で桜鍋を囲んだ。音頭を取ってくれた友人は、この季節だから企画したという訳でもなかったのだろうが、桜鍋の語感と馬肉の鮮やかな赤色が啓蟄の夜には合っていた。
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 今日の仲間たちと知り合ったのは大学二年の教養ゼミの時だから、考えてみれば37年も前のことになる。そんな歳月が過ぎたことが信じられないほど、このメンバーが集まれば昔のままの皆に舞い戻る。私自身、昨年は色々な事情から飲み会に出席できなかったので、彼らとは1年ぶり。そんなこともあって、この日は夜更けまで賑やかに過ごし、旧友たちから元気をもらったように思う。それはまた、我々にとっての啓蟄であったのかもしれない。

【3月7日(土)】 曇時々雨

 最高気温が10度に届かず、再び冬に戻ったような土曜日。曇り空に朝から小雨が混じっている。今週の中では、火曜日のひな祭りの日に次いで寒い日だ。

 とはいうものの、日本気象協会の現時点での予想では、東京都心の桜の開花は3月26日だから、あと三週間足らずで東京も桜の季節を迎えることになる。毎年この時期になると、そのカウントダウンに気分が高揚していくものだ。

 三週間後はまた一段と忙しくなっていそうな頃だが、春という季節は概してそんなもので、新しく色々なことが駆け足でやって来る。その慌しさにまみれるのも、春の楽しみの一つかもしれない。

 ダウンジャケットは、そろそろお蔵に入れようかな。

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