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いつもの車窓から [鉄道]


 木曜日の早朝、テイクアウトのホットコーヒーを片手に、東京駅22番ホームを急ぎ足で歩く。

 平日の午前7時から7時30分の時間帯には、4本のホームから東北・上越・北陸の各新幹線の列車が計8本出発するので、なかなかの喧騒ぶりだ。行き止まり式の各ホームで長編成の新幹線列車が15分おきに出るというのは、かなりタイトな運用なのだろう。(東海道新幹線のホームは14~19番線の計6本。)

 4号車のドアから車内に入り、自分の席の網棚に荷物を乗せていると、盛岡行きの「はやて111号」はもう動き出していた。

 7時16分発のこの列車は、私の会社の工場へ出張のたびに利用している。券売機で座席指定特急券を買う時に、決まって選ぶのが進行左側になる窓側のE席だ。東北新幹線の下りは進行左側が北~西向きになることが殆どなので、朝日がまぶしいことがない。そして、今日のように晴れた日には、左の車窓にひろがる山々の眺めが楽しみなのである。

 2月18日(木)、冬型の気圧配置が緩み、移動性高気圧に覆われて東京は朝から穏やかな青空が広がった。明日は「雨水」だから、今月初めの立春からまた一つ季節が進んだことになる。春が待ち遠しい時期である。
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 東北新幹線の車窓からの山の眺めについては、以前にもこのブログで取り上げたことがある。但しそれは、宇都宮駅付近からの日光連山(男体山、女峰山など)、那須塩原駅付近からの那須連峰、郡山駅付近からの安達太良山、福島駅付近からの吾妻連峰、そして白石蔵王駅付近からの蔵王など、いずれもメジャーな山ばかりだった。快晴の今日は遠くの山々がよく見えるから、今回はこれまでとは違った山々にも注目してみよう。以下、この日の車窓からの眺めをカシミール3Dで再現してみることにする。

1. 利根川橋梁付近

 110km/hの速度制限がある大宮までの区間に25分を要する間に、コーヒーをすすりながら私は日経新聞を読み終えた。その大宮を過ぎると列車はぐんぐんと加速。上越新幹線と線路が分かれて北東に向きを変えると、10分も経たないうちに利根川を渡るのだが、この時に利根川の上流方向の彼方に山々が並んでいるのがよく見える。左から、浅間山(2568m)、四阿山(あずまやさん、2354m)、榛名山(1449m)、そして赤城山(1828m)というなかなか豪華な顔ぶれなのだが、よく晴れた今朝はその榛名山と赤城山の間に雪を抱いた真っ白な遠い山並みが続いていることに気がついた。
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(東北新幹線・利根川橋梁からの山の眺め)

 その山並みが真っ白だから、標高はおそらく2000mクラスの山々だろう。けれども、谷川岳(1977m)をはじめとする上越国境の山並みであれば、この利根川橋梁からだと赤城山の背後にまわるような位置にあるはずだ。あれは一体どこの山なのか、今回の出張が終わるまで私はずっと気がかりだったのだが、帰宅してカシミール3Dで調べてみたら、何とそれは信州・志賀高原の山々だったのだ。
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(彼方に見えていた山々のクローズアップ)

 榛名山のすぐ右奥に見えているピークが横手山(2307m)、そして右から二番目のピークが白砂山(2140m)で、この二峰の間に上信国境を成す尾根が続いている。その背後にあるのが志賀山(2037m)、岩菅山(2295m)、裏岩菅山(2341m)といった志賀高原の山々だ。そして白砂山からは北方に走る信越国境の尾根があり、その途中にあるのが佐武流山(さぶりゅうやま、2192m)である。
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 志賀高原の横手山では、若い頃に残雪期のスキーを楽しんだことがある(もちろんゲレンデ・スキーだが)。なかなか姿の良い山で、雪を踏んで登ってみたいなあと思ったものだったが、まさかそのピークが利根川の河原から見えるとは。これは何とも嬉しい発見であった。
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2. 小山駅付近

 その上信国境の山々が左へと遠ざかり、赤城山の大きな山体の右側に続く山々が見え始める。それを更に辿れば男体山や女峰山など日光の山々に連なるので、大抵はそちらに目が行ってしまうのだが、今日は赤城山と日光連山の間にある、雪を被った一つのピークが妙に目を引いた。群馬県と栃木県の県境を成す尾根の一角にある皇海山(すかいさん、2144m)である。日光の男体山から中禅寺湖を隔てて西側にある山だ。日本百名山にも選ばれている。
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(東北新幹線 小山駅付近からの山の眺め)

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 それにしても、「皇海」と書いて「すかい」と読む不思議な名前である。それも、海が見える訳でもない内陸にある山の名前なのだ。

 日本の近代登山の黎明期に活躍した登山家・木暮理太郎(1873~1944)は、「かつて笄(こうがい)山と呼ばれていた山が、後に”皇開山”と当て字され、更に”開”の字が”海”になった」ということを、その著書に記したという。そして、それが”すかい”という音になったのは”皇”を”すめらぎ”と読むからだという。説得力があるのかないのかよくわからない話だが、「皇海」という文字と共に、天皇(すめらみこと)に由来するその読みからは、ちょっと背筋を伸ばしたくなる気分になる。実際に遠くから眺めていると不思議な威厳のあるピークである。
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(新幹線の車窓から望遠レンズで眺めたら、こんな風に見えるはずだ)

 栃木県側から庚申山を経て皇海山へと至る修験者用の長い道が伝統的な登山ルートだったようだが、今ではクルマを利用して群馬県側から、所要時間はもっと短いがアプローチが大変なルートがあるそうだ。実現するのがいつになるかはともかくとして、いつか登ってみたい山の一つである。

3. 鬼怒川橋梁付近

列車が宇都宮を過ぎて日光の山々が左へと去っていくと、那須連峰が見え始める前に、ちょっと目を引く一群の山がある。鬼怒川を鉄橋で渡るあたりが、一番その眺めがいいだろうか。
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(東北新幹線 鬼怒川橋梁からの山の眺め)

 東北新幹線の車窓からだと西平岳(1712m)、中岳(1729m)、釈迦ヶ岳(1795m)の三つのピークだけが見えているのだが、それらの東側には主峰となる鶏頂山(1765m)があり、それらをまとめて高原山(たかはらやま)と呼ぶのだそうだ。那須火山帯の最南端の山々で、鬼怒川の左岸に位置している。

 日光市の東部をクルマで走っていると、この鶏頂山はかなり目立つ立派な山だ。東武鬼怒川線の電車からも良く見えることだろう。その鬼怒川線を経て、野岩鉄道、そして会津鉄道を乗り継いで会津若松へと至るルートは、将来暇が出来た時の、私の乗り鉄プランの一つである。

4. 古川駅付近

 この日、関東地方は快晴だったが、福島県以北は少し雲があり、安達太良山、吾妻連峰、蔵王はいずれもピークが雲に隠れていた。それが、仙台を過ぎると再び青空が広がり、列車が鳴瀬川を渡って大崎平野に入り、古川駅に向かって速度を落とし始めた頃、宮城・山形の県境に連なる船形山(1500m)が大きな姿を見せていた。横長の台形の上に幾つかの小さなピークがあるのだが、それらの総称が船形山だ。なるほど、船を逆さにした形と言われればその通りである。
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(東北新幹線 古川駅付近からの山の眺め)

 私は古川で新幹線を降り、待っていてくれた会社のクルマで工場へと向かう。駅から30分弱の、大きな高台の上にある工場からは、この船形山が終日よく見えていた。冬型の強い日だと、山の向こうは雪なので船形山の稜線も雲に隠れているのだが、移動性高気圧に覆われた今日は山形県側も天気が良いらしく、船底の形の稜線が本当によく見えている。
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 今日のような日にあの稜線に上がったら、その向こうにはどんな景色が待っているだろうか。山形県の朝日連峰や月山、そして鳥海山などはどんな風に見えるのだろう。そんな機会も、いつか作ってみたいものである。

 出張中の身でありながら、今回も道中で山々の眺めに恵まれた。よく調べてみれば、車窓から見えているのに気がつかない山々が他にもありそうである。いつもの車窓からの眺めも、意外と奥が深いのかもしれない。

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